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神戸地方裁判所 昭和57年(わ)170号 判決

主文

被告人を懲役一〇月に処する。

訴訟費用は被告人の負担とする。

理由

(罪となるべき事実)

被告人は、

第一  自己と昭和五七年一月二〇日過ぎころまで同棲していた原田絹代(当時四二年)が越名幸男(当時三三年)と交際していたことから、同月三一日兵庫県明石市内のドライブインにおいて、右越名から慰謝料名下に現金五〇万円を同年二月一日に支払う旨約束させたものの、同人が右約束の履行をしなかつたことから、同人に因縁をつけて金員を喝取しようと企て、同月四日午前二時ころ、同人が一時起居していた神戸市兵庫区大開通七丁目六番一一号久保マンション三〇二号室の前記原田絹代方四畳半の間において、右越名に対し、同人の喉仏付近に刃体の長さ一七センチメートルの包丁(昭和五七年押第九七号の1)を突きつけながら、「わしや会社をやめてでもして今日は決着をつけるんや。嘘ばかりついて履行せい。」などと語気鋭く迫つて五〇万円の交付方を要求し、同人が右要求に応じなければ、同人及び同所に在室する右原田の生命、身体にいかなる危害を加えるかも知れないような気勢を示して右越名を畏怖させ、右金員を喝取しようとしたが、同人らが警察署に被害の届出をしたため、その目的を遂げなかつた

第二  前記日時場所において、前記原田が被告人と右越名との間の話のやり取りの内容を聞こうとしたり、被告人に退去を要求したことに対して憤慨し、前記包丁及び手拳で同女の頭部を数回殴打し、かつ、その腰部等を数回足蹴にする暴行を加え、よつて同女に対し全治約二週間を要する頭部及び下肢挫傷、上肢及び腰部挫傷・皮下出血の傷害を負わせた

第三  業務その他正当な理由がないのに、前記日時場所において、前記包丁一本を携帯していた

ものである。

(証拠の標目)(省略)

(弁護人の主張に対する判断)

弁護人は、判示第三の事実につき被告人が本件犯行当時判示包丁を携帯していたのは酒のつまみを切るためであつた旨主張しているけれども、被告人は判示原田絹代方台所にあつた右包丁を同人方四畳半の間まで持ち出し、かつこれを判示第一及び第二の犯行の用に供しているのであるから、被告人が右包丁を弁護人主張のような目的で携帯していたとは認められず、右携帯につき業務その他正当な理由のないことは明らかであつて、弁護人の主張は採用することができない。

(法令の適用)

被告人の判示第一の所為は刑法二五〇条、二四九条一項に、判示第二の所為は同法二〇四条、罰金等臨時措置法三条一項一号に、判示第三の所為は銃砲刀剣類所持等取締法三二条三号、二二条にそれぞれ該当するところ、判示第二、第三の罪について所定刑中それぞれ懲役刑を選択し、以上は刑法四五条前段の併合罪であるから、同法四七条本文、一〇条により刑及び犯情の最も重い判示第一の罪の刑に法定の加重をした刑期の範囲内で被告人を懲役一〇月に処し、訴訟費用については、刑事訴訟法一八一条一項本文を適用して全部これを被告人に負担させることとする。

(量刑の事情)

本件は、被告人が、別れた原田と交際する越名から慰謝料名下に金員を喝取しようと企て、深夜越名が一時起居していた原田方居宅に無断で入室したうえ約二時間にわたり、右越名に対し、包丁を突きつけるなどして執拗に金員支払方をせまり、他方右原田に対しては殴打、足蹴にするなどの暴行を加えた事案であつて、犯行の動機において特に同情の余地はなく、犯行の態様も粗暴かつ執拗である。

さらに、本件犯行がいずれも執行猶予期間中になされていること、犯行当時までの被告人の生活態度は不良であると言わざるを得ないこと、被害者である越名の被害感情にはなお厳しいものがあることなどの諸点を考慮すると、被告人の刑事責任は重いものと言わなければならない。

してみると、被告人においては内縁の夫という意識のもとに本件犯行をなしたことが窺えること、判示第一の犯行については未遂にとどまつていること及び原田の被害感情はそれほど大きなものではないことなどの被告人に有利な事情を考慮しても主文掲記の刑は巳むを得ないところである。

よつて、主文のとおり判決する。

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